2012年10月1日月曜日

トレードシステムの性能の統計的調査法(1)

今回から何回かにわたってトレードシステムの性能を統計的に調査するための手法の一つを説明したいと思います。
 
まずその背景のまとめから書いていきます。
 
学術の世界において古くは、株式などの金融資産の資産価格過程は幾何ブラウン運動でモデル化されてきました。資産価格過程が幾何ブラウン運動であるとすると、その対数収益はマルチンゲールとなるため、原理的にトレードシステムでの期待収益は0になってしまいます。すなわち、期待収益が正になるトレードシステムは存在しないことになります。
 
しかしながら、近年の実証研究の結果によると、資産の収益率の分布は非対称性およびヘビーテイルの性質を持っていて、将来の価格の動きは過去の価格の動きの履歴に依存する性質があると考える方が自然であると考えられるようになってきています。そのため, これらの性質を持たない幾何ブラウン運動で資産価格過程をモデル化することは適切ではないと考えられるようになってきています. 
 
上述のように、資産価格過程が幾何ブラウン運動に従うと仮定した場合、過去の価格の動きの履歴に基づいて取引を行うトレードシステムの有効性は完全に否定されることになります. そのため, 学術的な世界においては, 伝統的にはトレードシステムの有効性は完全に否定されており、ゆえにトレードシステムの有効性に関する研究もほとんど行われてきませんでした。しかしながら、資産の収益率の分布が非対称性およびヘビーテイルの性質を持っていて、将来の価格の動きは過去の価格の動きの履歴に依存する性質がある非効率性が市場にあるならば、有効性を持つ取引システムが存在するかもしれません。
 
例えば、Brockら[1]は、単純なテクニカル手法を使用することで、統計的に意味のある利益を得ることが出来る可能性があることを60年間のDow Jones Indexを調べて報告しています.
 
[参考文献]
[1] W. Brock, J. Lakonishok, and B. LeBaron, "Simple Technical Trading Rules and the Stochastic Properties of Stock Returns," Journal of Finance, 47(5), pp.1731-1764, 1992.

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