2014年4月25日金曜日

書籍「アルゴリズムトレーディング入門」

アルゴリズムトレーディング入門
自動売買のための検証・最適化・評価

ロバート・パルド[著]
長尾慎太郎[監修]
山下恵美子[訳]



本書はトレーディング戦略の開発原理を検証、最適化、評価プロセスに焦点をあてて論じた本である。本書を読んで感じるのは、自動化トレーディング戦略を適切な手順で開発することの重要性である。適切な手順で開発されていない自動化トレーディング戦略は、いざ実際にトレーディングを始めてみると、想定を下回る散々な成績なってしまうことが多い。その理由の一つは、自動化トレーディングシステムの開発プロセスにおいて、トレードシステムのパラメータの最適化プロセスにおいてだけでなく、いたるところで広い意味でのオーバーフィッティングが行われてしまう可能性があるためである。

自動化トレーディング戦略の開発が難しいところは、そのすべてが確率的であることである。開発のすべてのプロセスでこのことを意識して対処していなければ、オーバーフィッテイングが行われてしまい、それが行われていることも意識できない。手に入る市場価格データは、過去のものであり、確率的な振舞いの中で偶然実現した一本のサンプルパスに過ぎない。また将来の市場価格データも確率的で、それにトレードシステムを適用して得られる結果も確率的なものとなる。そのような確率的なものを検証、評価する作業は、検証結果、評価結果自体も確率的なものになるため、適切に検証、評価を行うことは、普通に考えられていることよりもずっと難しいことである。

本書は、自動化トレーディング戦略開発を8つのステップに分けて論じている。開発のスタート段階である戦略の概念化から始まり、リアルタイムトレーディングの実行を経て、最後の戦略の改良までの各ステップにおいてオーバーフィッティングを出来るだけ避け適切な検証を行うための様々な手法、考え方が紹介される。「予備検証」、「探索と評価」、「最適化」、
「ウォークフォワード分析」、「パフォーマンスの評価」の章において、設計、検証、評価を互いに関連させた形で論じている。

著者も言うように「トレーディングにおいて100%というものは何もない」。ここで紹介されている検証、最適化、評価プロセスも100%ではないが、出発点としてやってみる価値は十二分にあるものである。



2014年4月18日金曜日

書籍『天才数学者はこう賭ける』

リスクとリターンは比例する
これが投資の一般常識です。
その常識に疑問を投げかけ、実は間違いではないか?というのが、この本のメインテーマです。

例えばゾウガメの甲羅のようなグラフを思い描いてみましょう。
ある地点まではリスクの上昇に伴いリターンも上昇しますが、一定以上のリスクを超えると、リターンのカーブが右肩下がりになります。
そしてリスクを摂り過ぎると破綻します。
これを数学的に表現したものが、ケリーさんが考案した「ケリー基準」です。
そのケリー基準を縦軸に、クオンツ系ヘッジファンドの先駆者、エド・ソープや情報理論を構築したシャノンが投資の物語を展開します。

システムトレードで最も難しいのは、何でしょうか?
私はレバレッジだと思います。
このレバレッジのかけ方をうまくやって儲けた人たち、途中までうまくいったけど破綻した人たちの実例が数多く出てきます。

リスクとリターンが比例すると思っている方に読んでみて欲しい一冊です。


【目次】
1 エントロピー
2 ブラックジャック
3 裁定取引(アービトラージ)
4 サンクトペテルブルグの賭け
5 RICO法
6 破裂
7 シグナルとノイズ

「Rickey Cheung」 執筆 「The Trading Edge」 のトレード手法



著者はアメリカのS&P 500指数先物のトレーダーとして一躍有名になった香港人です。この本に書かれているトレード手法が通用した時代に、彼が主催していた数十万円から数百万円のセミナーで教えていた内容が、ソースコード付きで紹介されています。マーケットは変化しているので、現在この手法は通用しません。しかし過去にバリューがあったトレード手法を学習することができる機会を、本を通して提供してくれた彼には、本を読んだ読者全員が感謝の気持ちを持つだろうと思わせる位、質が高い本だと思います。もしかするとある人は書かれているトレード手法のコンセプトには斬新さを感じないかもしれませんが、刻々と変化するマーケットに、ある一定期間でも通じるトレード手法を見つけるために必要な着眼点の持ち方は、いつの自体にも通用するのではないかと強く思います。Forex市場を対象とした本ではありませんが、考え方は応用できます。



本に書かれているトレードロジックを簡単な言葉でまとめると、「ある銘柄をトレードするために、その他の銘柄を見ながらトレードする」です。ピンときた方は過去に同様の着眼点でトレードされたことがあるか、研究されたことがある方でしょう。ピンとこない方にとっては、まさにこれまで考えたことも無かった新たな着眼点となるでしょう。この考え方がこの本の一番重要なポイントですが、他にも幾つか役に立つポイントがあります。1つ目は、大引けで残っている全てのポジションを決済してオーバーナイトしないことです。2つ目は、デイトレードといってもエントリーは1日に1回または2回だけです。3つ目は、一般的なテクニカル指標でなく全く新しい独自のコンセプトに基づいたロジックを使用していることです。



              3つ目の「独自のコンセプトに基づいたロジック」が重要そうに見えますが、それ以上に「オーバーナイトをしない」、「1日に12回のエントリー」のポイントを採用しているストラテジーはあまり多くありません。なぜかというと、ここでは検証は行いませんが、一般的なテクニカル指標でエントリーしたストラテジーは、時間的な概念のエグジットの決済よりも、一般的なテクニカル指標での決済やトレーリングストップなどの決済の方が利益が出やすいからです。つまり大引けで決済させると途端にストラテジーが勝てなくなるからです。オーバーナイトしないことは資金とリスク管理の面(数年に一度の天災は予測できない)から重要なポイントです。また一般的なテクニカル指標でエントリーしたストラテジーはその一日の流れを考慮してエントリーしている訳ではないので、直ぐに決済しなければいけなかったり、条件を厳しくしないと何度もエントリーしてしまうストラテジーになりがちです。



他の銘柄を基準に自分が実際にトレードしたい銘柄を見ながら、独自コンセプトのロジックにより1日の流れを決定して、その他のポイントを考慮しつつ、1日の値幅一杯大きく取れるようストラテジー、そのようなストラテジーを完成させるためには、彼のような着眼点で持って、マーケットを研究する必要があります。



              この本のアイディアは裁量トレードでも使えますが、自動売買ストラテジーを作りたいと考えている方に一番恩恵があります。「ある銘柄をトレードするために、その他の銘柄を見ながらトレードする」ロジックのソースコードが付いているからです。このロジックは現在は既に通用しないので、そのまま運用はできないですが、デイトレードストラテジーを作成するための雛型として、プログラムの書き方が非常に参考になります。メインのロジック部分だけでなく、周りの部分も上記で述べたようなポイントで芯を通して構成されているため、例えばメインのロジック部分を自分の考えたロジックに入れ替えたりして、オリジナルのストラテジーを作成することもできます。

是非機会があれば読んでみてください!!