2012年9月16日日曜日

確率論における3つのタイプの収束定理(6)

3つのタイプの収束定理の3番目の大偏差原理 (Large deviations principle)について論じます。
 
大偏差原理とは、大まかに言えば、確率分布列のテイルの漸近的な振舞いに関する原理です。
 
中心極限定理は、n個確率変数の標本平均とその期待値との差にnの平方根をかけて得られる確率変数の中央部分の分布がnが無限大に近づくとき正規分布に近づくというものでした。
 
これに対し、大偏差原理はその裾野の確率の指数的な減衰率を扱います。
 
トレードにおいて、確率分布のテイルの挙動を知ることや稀事象の発生確率の推定をすることは非常に重要なことです。大偏差原理は、そのような目的のために使える原理です。

2012年9月4日火曜日

確率論における3つのタイプの収束定理(5)

中心極限定理も、その成立を保証する主な前提に注意して適用する必要があります。
例えば、主な前提としては以下のものがあります[1]。
 
  • 確率変数列を構成する確率変数は独立な確率変数でなければならないか、または少なくとも相関が強すぎてはいけません。相関関数が十分に速く減衰する必要があります。
  • 確率変数が必ずしも同一分布にしたがっている必要はありません。しかし、ある分布の分散が他の分布の分散を支配してしまうほどには大きくないことが必要です。
  • 中心極限定理は,、確率変数n個の標本平均のnが無限大となる極限においてのみ適用されます。したがって、正規分布が和の分布の近似として有効であるためには、nが十分に大きくなければなりません。
  • 中心極限定理は、その裾野に関しては何も述べていません。分布の中央部分だけが正規分布によって記述できます。有限で大きいnに対して正規分布による近似が有効である領域の実際の幅は基本分布に決定的に依存します。
 
これらのことに十分注意した上で、中心極限定理を適用することが必要です。
 
参考文献
[1] J.-P.ブショー,M.ポッター,金融リスクの理論 - 経済物理学からのアプローチ -, 朝倉書店,2003.